人の痛みがわかる人になれる絵本「ぼくは くいしんぼう仮面」

2019年9月に旗揚げされた大阪スタイルなプロレス団体「OSW」(OSAKA STYLE WRESTLING)。

OSW公式ツイッターによると、OSWとは「OSAKAスタイルのプロレスを全世界に広げ、「エガオ」と「ゲンキ」を世界中の人々にプレゼントする【地球密着プロレス団体】」です。

この団体を立ち上げたのは、くいしんぼう仮面選手。
先日、当サイトでは、旗揚げ情報を「くいしんぼう仮面選手が新プロレス団体OSW(OSAKA STYLE WRESTLING)旗揚げ!」でお伝えしました。

団体のエースとして、先日の旗揚げ戦でもメインイベンターを務め、本日9月7日(土)も大阪で下記の「くい菊ワンマッチ興行」が開催されています。
(「くい菊」とは、「くいしんぼう仮面」選手とそのライバル「菊タロー」選手のことです。くいしんぼう仮面の「くい」と菊タローの「菊」で「くい菊」。)


団体のトップレスラーとして日々、激しい連戦をこなす「くいしんぼう仮面」選手のもう一つの顔、それは絵本作家です。
「ぼくは くいしんぼう仮面」 という絵本が2018年に出版されています。
(↓くいしんぼう仮面選手の可愛らしいイラストの表紙が目印です)

つい先日、この絵本が我が家に到着しました!
私はこれまで、プロレスラーの自伝や、プロレスの裏話を書いた本、レスラー監修のトレーニング本など、様々な本を購読してきました。
その中でも異色の「絵本」、これは読まない手はありません。

Amazonの紹介文によると、くいしんぼう仮面選手はこの本を通して、
「人間にはそれぞれに役割がある。
 他人をうらやむ必要などなく、自分の役割の素晴らしさを分ってもらいたい」
ということを伝えたいとおっしゃっています。
どんな絵本なのか、購入ボタンを押すときからとても楽しみでした。

先日の夜、仕事から帰宅すると、1冊の本が届いていました。
そこそこ大きい包みです。
「こ、これはあの『くい様』(注:くいしんぼう仮面様の略)の絵本では!!!」

そりゃまぁ、ネットで注文したのは自分ですから、数日のうちに届くのはわかっているんですが、やはりプロレス本が届いて開封する時というのは、仕事疲れも吹き飛ぶワクワクする瞬間です。

じゃじゃーん!(←本を取り出した時の自分の頭の中のファンファーレ)
開封するとまず、かわいらしいイラストと帯の文字に目が行きます。

 君を笑顔にするプロレスラーがここにいる!
 心やさしいヒーローだ。その名は「くいしんぼう仮面」

そして、裏表紙は、くいしんぼう仮面選手が”バービック”(※)をしているイラストが!!
プロレスファンにもたまらない仕上がりです。

※「バービック」とは、ローキックをされた足を大げさに痛がるポーズのことで、くいしんぼう仮面選手をはじめ、大阪スタイルなレスラーの皆さんが試合中に行う、ファンに大人気の動き(ムーブ)です。場合によって、レフリーの方も一緒にやることもあります。
名前の由来は、1991年にUWFインターナショナルで高田 延彦選手と戦った大物ボクサー、トレバー・バービック選手。
高田選手のローキックを受け、足を体操の伸脚のように伸ばし、キックの当たった個所を指さしして、怒り心頭の様子で激しい痛みを訴えるバービック選手の動きが元になっているそうです。


このように、プロレスの持つ一面を表現するために隅々にこだわりが見られ、読みやすく、心あたたまる絵本です。
私も子を持つ親の一人ですが、ウチの子が小さい頃に出版されていたら、読み聞かせの1冊に入っていたことと思います。

この絵本では、明るい色合いとほんわかしたイラストになっており、一見プロレスとは関係のない絵本に見えるほど、子どもさんにもとても親しみやすい絵本になっています。
(ウチの子も「絵がかわいい」と言ってました)

実物のくいしんぼう仮面選手もピエロのような親しみやすいコスチュームで、強さや怖さを全面に出すことの多いプロレスラーの世界では異色の存在です。
だからこそ、このような絵本が作れたのかなと思います。

この絵本のあらすじを、ものすごく大雑把にご紹介しますと、

 チャンピオンにあこがれるくいしんぼう仮面。
 でも、チャンピオンになれない自分。
 悲しい気持ちになり、プロレス会場から飛び出してしまいます。

 その後、神様に出会い、自分の才能と役割に気づきます。
 自分のミッションに目覚めた、くいしんぼう仮面。

 絵本のラストは、くいしんぼう仮面の最高の笑顔のイラスト。
 ホッとするラストシーンを迎えます。


私は、40代になっても、他の人が羨ましく見えることが多い、迷える中年です。
(この絵本に出てくる「つかれているお父さん」によく似ています)

この絵本を読んで、地位や名誉や収入にばかりとらわれるのではなく、自分の役割を誠心誠意果たすことの大切さをあらためて感じました。

自分が汗を流し、周囲の人に役に立ち、喜んでもらう。それが巡り巡って自分の幸せになる。

「自分の役割をいっしょうけんめいすれば、
 たくさんの人が応援してくれて、仲間になってくれる。」

シンプルなメッセージゆえに、ストレートにココロに響きます。

  •  心にすんなり入ってくるときは、心身のバランスが取れているとき。
  •  心になかなか入ってこないときは、疲れているとき。

ご自身のメンタルのバロメータとしても、この絵本を一度ご覧いただくと良いと思います。

今週9月4日(水)配信の「有田と週刊プロレスと」では、越中詩郎選手がテーマです。越中選手は、高田延彦選手のUWF仕込みの蹴りを受けて受けて受けまくり、何度蹴られても立ち上がって反撃するという、「受け」のプロレスでファンを魅了しました。高田選手との攻防は、「ジュニアヘビー級の名勝負数え唄」と称賛されています。

スタイリッシュな高田選手に対し、野武士のような風貌の越中選手。
越中選手は全日本プロレス仕込みの受けのプロレスを展開し、攻め手が輝き、受け手も魅せるという、高度な役割を見事に果たす仕事人同士だからこそ生み出せる名勝負を繰り広げました。
越中選手については、「有田と週刊プロレスと」はなぜ面白いのか!? ファイナルシーズン 第9回 「越中詩郎」にも書きましたのでご覧ください。

絵本「ぼくは くいしんぼう仮面」の中で、くいしんぼう仮面は、越中選手のごとく、数々の技を受ける姿がたくさん描かれています。物語の中に出てくる神様とのプロレスにおいても、勝負としては負けてしまいますが、この絵本はそこでは終わりません。

技をかける人・受ける人、勝負に勝つ人と負ける人がいます。
プロレスでは、受ける人も負ける人も、上手でなければチャンピオンや勝つ人が輝かないため、試合がつまらないものになってしまいます。

ビジネスの現場でも、仕事を依頼する人と仕事を受ける人がいます。
たいていの場合、仕事を依頼する側の立場が強いことが多いと思います。
チャンピオンになりたいと願う、絵本の中のくいしんぼう仮面のように、 強い立場になって自分の思い通りにできたらいいのに、と誰もが思います。

一方で、弱い立場で辛い仕事を受ける人がいてくださるからこそ、社会が回っていて、私たちが生活できているのだろうと思います。

受ける人、負ける人は地味な役回りです。辛いことも多いでしょう。
プロレスは、技を受けるたびに激しい痛みが生じます。
「どうしてこんなに痛い思いをしてまで、やらなきゃいけないのか・・・」
人間だれしも、主役をやりたいと思いますし、憧れます。

しかし、全員が主役をすることはできないのが世の中です。
自分が受け手の役割をしっかりと担い、主役を輝かせるという仕事を全うすることで、最終的に自らも輝くという人こそが、本物のプロフェッショナルなのかもしれません。

「縁の下の力持ち」は普段は気づかないけれど、失うと非常に大きな存在であることに気づきます。いないとみんなが本当に困ってしまう。
実は、人に見えない仕事や負ける役割を果たす人が、本当のヒーローであり、リアル・チャンピオンなのかもしれません。
リアル・チャンピオンは目立たないので、静かに姿を消すことも多いですが、いなくなってから大切さに気づくということが人間の歴史の中で繰り返されてきているのではないでしょうか。

このように、全員が主役をすることができないという厳しい現実、受けの大切さ、負ける役割の必要性について、様々な経験を積んだ大人の方には共感を得られる可能性がありますが、人生経験の少ない子どもたちにわかりやすく教えることはとても難しいことだと思います。

この難しいことを伝えるというチャレンジをしているのが、絵本 「ぼくは くいしんぼう仮面」 です。やさしい絵とことばで、押し付けることなく、爽やかにさりげなく伝えています。
この爽やかさが、くいしんぼう仮面選手のプロレスの魅力を物語っているように感じます。

この絵本を読んで「人生はプロレスである」という言葉が頭に浮かびました。
もちろん、この絵本に難しいことは一切書いてありません。
字数が少ないからこそ、逆に創造力が湧くのかもしれません。

人生において、人は思いもよらない様々な役割を担うこと、担わされることがあります。
自分が勝つ役割もあれば、負ける役割もある。
ヒーローの時もあれば、 嫌われる悪役を担わないといけない時もある。

絵本の中のくいしんぼう仮面は、最初は「チャンピオンになったかっこいい自分」を目指していましたが、自分の才能に気づき、自分の中の「なりたい自分」の姿が変わっていきます。そして、最後には「周囲の人を笑顔にできる自分」を目指すように変化していきます。

自分の役割に迷う瞬間というのは、多分、自分の中の「なりたい自分」とのギャップが生じている時だと思います。
そんな時、この絵本のページを開いて、思い出したいと思います。
「なりたい自分」とのギャップのあるイヤな役目であっても、巡り巡って「なりたい自分」につながる部分が見いだせたら、周囲の人のために、その役割に全力を尽くそうと思います。

技を受ける役割、負ける役割の大切さを知る人は、人の痛みのわかる人だと思います。人の痛みのわかる人は、周囲の人から愛される人になります。
周囲の人から愛される人は、幸せです。

子どもたちに「人の痛みのわかる人」になるんだよ、と言葉で言ってもなかなか伝わりません。
でも、この絵本は違う表現で、子どもたちに伝えてくれます。
最初は「ふーん、そうなの」という感じの反応かもしれません。
でも、この絵本を読んだ子が、大きくなって「そういうことだったのか」とわかる日が来る、そんな気がします。

この絵本を読んでいて、なぜ自分がプロレスに惹かれるのか、なにか少し見えてきた気がします。
今の段階では、上手く言葉に表現できませんが、「私にとってのプロレスの魅力」について、もう一度じっくりと考えてみようと思えるきっかけになりました。
ありがとうございます。

この絵本は私に、いろいろなヒントを与えてくれました。
今後、身近な人の出産祝いに、この絵本をプレゼントしたいと思います。